STORY
熱中ニッポン vol.6
商店街に泊まる!?
名古屋のインバウンド最前線
芸能、アート、農業、ファッション、音楽、IT企業など、さまざまなグラウンドで活躍するリーダーにフォーカスする熱中ニッポン。vol.5と6は「名古屋の訪日インバウンド」をテーマに、2本連続の名古屋特集でお届けします。
後半のvol.6は、名古屋の円頓寺商店街でゲストハウス「西アサヒ」を運営する田尾大介さんにインタビュー。「ゲストハウスは訪日インバウンドのラボ(研究所)」と話す田尾さんが目指す、旅行者にも旅行業者にもうれしい観光ビジネスについてじっくりお聴きしました。
名古屋特集 前半vol.5はこちら
オーストラリア人が提案する世界目線の「NAGOYA」観光
地元で80年以上愛されてきた喫茶「西アサヒ」
名古屋駅と名古屋城を結ぶ道に位置する円頓寺商店街(えんどうじしょうてんがい)。名古屋駅から徒歩20分という場所にありながら、アーケードの中に一歩足を踏み入れると、懐かしい雰囲気とゆったりとした時間の流れを感じます。そんな商店街を少し歩いたところに、おしゃれなカフェ風の「西アサヒ」が見えてきます。
円頓寺商店街にある「喫茶、食堂、民宿。西アサヒ」
ー まずは、「西アサヒ」についておうかがいします。ここはカフェでありゲストハウスなんですよね?
田尾:カフェレストラン&ゲストハウスなのですが、私たちは1階を喫茶・食堂、2階は民宿と呼んでいます。もともと、円頓寺商店街で80年以上にもわたって愛され続けた老舗喫茶「西アサヒ」を、2015年4月にリニューアルオープンしました。1階は喫茶店時代の面影を残しつつ、夜はハッピーアワーでビールを楽しんでもらったり、イベントスペースとしても活用しています。2階はドミトリーと和室の宿泊施設にして、「商店街に泊まる」新しいスタイルを旅行者に楽しんでもらってます。
西アサヒのオーナーで名古屋を熱く盛り上げる仕掛け人 田尾さん
ー 「西アサヒ」といえばタマゴサンドが有名ですね。
田尾:タマゴサンドは昭和7年から地元で愛され続けた名物サンドで、ふんわりしたタマゴとキュウリの歯ごたえがアクセントの人気メニューです。私自身は以前の「西アサヒ」のタマゴサンドを知らないので、試作を重ねて地元の方にも食べてみてもらって復活させました。平日はご近所や会社員の方のランチやおやつとして人気があり、休日はこれを目当てに遠方から円頓寺商店街にふらっとやってくる方も多いんですよ。
名物タマゴサンドを目当てに来る人も多い
ー 「西アサヒ」の2階にはどんな旅人が泊まってますか?
田尾:「西アサヒ」の宿泊者は外国人が50%、日本人が50%ですね。桜のシーズンになると外国人がかなり多いですけど。外国人の50%のうち、40%が台湾、香港、シンガポール、タイなどのアジアで、残りの10%はオーストラリアやフランス、スイス、ベルギー、ドイツ、カナダなどの欧米系ですね。みな団体旅行ではなくFIT(Foreign Independent Tour、個人旅行客)の旅行者ですね。
男女混合ドミトリーには読書灯とコンセント、棚などがあり快適に過ごせる
外国人のグループ旅行に人気の和室。この日はタイからの女性4名グループが泊まっていた
今日は日本人のバイクのライダーさん、スイスから2週間の旅行をしているカップル、タイの女性4名グループ、それから、ワーキングホリデーで長期宿泊しているオーストリアの男の子ですね。バイクのライダーさんは「これまで泊まったゲストハウスで一番きれいだった!」って言ってくれまた。旅の目的や国籍はバラバラですが、みな、清潔で快適な「西アサヒ」でリラックスしていってほしいと思ってます。
2週間かけて日本を北上する途中、「西アサヒ」に寄ったというスイスからの旅行者
ローカルな人との国際交流の場としてリニューアル
ー 田尾さんはどうやってこの「西アサヒ」と出会ったのですか?
田尾:地元の人が暮らすような感覚を旅行者に感じてもらえるゲストハウスを作りたくて、物件を探していました。名古屋駅に近いのに、のどかな生活の雰囲気が残るこの円頓寺商店街がとても好きだったのですが、この円頓寺商店街自体も再建プロジェクトが進んでいました。そんな中、周囲に「ゲストハウスをやりたい!」と話していたところ、ご縁あってこの「西アサヒ」を紹介してもらいました。
「暮らすように旅ができる場所を作りたかった」と語る田尾さん
ー 実際にリニューアルするにはご苦労があったのでは?
田尾:リニューアル前の「西アサヒ」は、某テレビ局のキタナシュランというコーナーで取り上げられるほど老朽化が進んでいました。でも、天井が高いため空間が広く、坪庭があるのがすごくいいと思いました。2014年2月に「西アサヒ」のリニューアルが始まりまして、2015年4月にようやく開業できました。オープンしてちょうど1周年を迎えるところですが、こうして話すとすごく時間の経過が速いなって感じますね。
ー 外国人旅行者が喜ぶゲストハウスとしてどんな工夫をしていますか?
田尾:ゲストハウスに泊まる人が望むことは、ローカルの人との交流です。だから、ゲストハウスのスタッフ自身がローカルな人として旅人としっかり交流することが大事です。スタッフがきちんとコミュニケーションを取ることで、旅人の満足度が上がります。機能性の高い設備に加え、こうしたサービス面もゲストハウスとしてとても大切なことです。
旅行者には気軽に声をかける。笑顔が素敵なスタッフのみなさん
世界を旅して名古屋にたどり着くまで
ー このような事業を立ち上げた経緯は?
田尾:よく旅行をする家族で育ったこともあって、大学卒業後は旅行関係の会社に就職しました。MICE(マイス:国際会議や展示会などのビジネストラベル)を担当し、2002年頃からインバウンドに関係する仕事をやらせてもらいました。仕事はやりがいがありましたが、将来を考えると英語と経営がわからないとダメだと思ってました。
2002年頃からインバウンドの仕事を手掛けていた田尾さん
ー 海外ではどんなことを経験されましたか?
田尾:英語を習得するためにオーストラリアの語学学校に通った後、カリフォルニア大学バークレー校でマーケティングを学びました。帰国して再び旅行業の仕事をしましたが、独立して自ら旅行の仕事を始めるには経営のノウハウが必要だと思い、名古屋のグロービス経営大学院で経営学を学び、2013年に株式会社ツーリズムデザイナーズを起業しました。
ー ツーリズムデザイナーズではどんなビジネスを?
田尾:訪日外国人向けツアーオペレーター事業と、観光コンサルティング事業、ゲストハウス事業があります。「西アサヒ」はツーリズムデザイナーズのゲストハウス事業にあたります。現在は「西アサヒ」の売上がかなり大きいですが、将来的にはツーリズム事業を拡大させていく計画です。もともと、ずっと人をよろこばせる仕事がしたいと思っていたので「人と文化をつなぎ、豊かな心あふれる社会と人々の幸せを創造する」を企業理念にしています。
株式会社ツーリズムデザイナーズの事業イメージ
ー 他の旅行会社とどこが違うのですか?
田尾:旅行業界で感じてきた疑問を解消して、イノベーションを起こしたいと思っています。実は、旅行業者が一番時間を割いているのは価格交渉です。また、旅行者自身もWebサイトなどで価格を比較検討するけれど、パッケージ化されているためコストが不透明でどうもわかりにくい。旅行代金の価格透明性を高めることで、旅行業者は「お客様に喜んでほしい」「訪日客には日本を好きになってほしい」という、本来のやりたいことに力を割けるようになります。旅行者は最低価格が保障されているので、プラスαでおもてなし力の高いサービスを求めるようになる。もてなす側も、もてなされる側もうれしい仕組みを構築したいと思っています。
外国語表記を積極的にしている円頓寺商店街の老舗店
旅する人も迎える人もハッピーな観光を
ー ゴールデンルートと昇龍道。インバウンドの2大ルート上にある名古屋ですが、訪日客が通過してしまうのが課題と聞いてます。そんな名古屋の訪日インバウンドを盛り上げるための作戦は?
田尾:東京や京都のような有名観光地では味わえない、日本の普通の暮らしや生活文化を便利に体感できるのが名古屋の売りだと思います。私が旅人だったら、その土地の普通の暮らしを見たいと思うんです。名古屋は旅人が最低限必要とする都市機能がありながら、日本の普通の生活を感じることができる街です。だから、そんな方々がもっと日本の歴史や文化を深く理解するためのツアーやアクティビティをたくさん揃えて、アピールしていきたいと考えています。
また、名古屋のオンリーワンとしては「サムライ」を推していて、名古屋城をもっと楽しめるスポットとして盛り上げていきたいと思っています。「西アサヒ」でも名古屋おもてなし武将隊の家康様とコラボレーションして、名古屋めしの手羽先を開発しています。最近では、カブキエンターテイメント‘ナゴヤカブキ’が楽しめる「ナゴヤ座」も商店街にオープンしました。
ー 名古屋に来る旅行者のニーズは?
田尾:名古屋城や大須商店街は人気ですが、一言で言えば「旅人による」のが結論です。買い物目当ての香港人にはドンキホーテを案内しますし、トヨタに興味のある人は工場見学を、刀剣乱舞が好きな子には徳川美術館を案内します。その他、歴史や宗教を知るためのツアーや大相撲観戦、マンガ講座、甲冑体験なども提供しています。大量送客の旅行ではなく、One to Oneのきめ細やかな旅行を提供したいですね。
商店街にある小さな金毘羅神社も外国人には人気のスポット
ー 最後に、今後の目標をおしえてください。
田尾:今はノウハウを蓄積するフェーズと考えて、どんなに面倒くさいオーダーでも受けて旅行者の満足度を高める技を磨いています。また、ゲストハウスには連日外国人旅行者が訪れますので、「西アサヒ」が外国人ニーズを研究するラボとも言えます。そうやって蓄積したノウハウを、将来的には、高度に仕組み化してお客様に提供できるようにしたいと考えています。
ノウハウを貯め高度な仕組化を実現するため、今は誰もやらない面倒くさいことひたすらやるステージ
取材後記
取材の後、私も実際に「西アサヒ」に泊まってみました。リビングではスイスからのカップルが日本地図を広げて旅の計画を練り、タイから来た4名の女性グループは和室に布団を敷いてまるで修学旅行みたいな雰囲気。みな思い思いに「西アサヒ」の夜を過ごしていました。外国人に泊まった感想を聞いてみると、「日本のホテルや旅館のように行き届いたサービスはすごいなって思うけど、ちょっとやりすぎって思うこともあるの。普通の日本を普通に体験したいし、できるだけ長く滞在したいからゲストハウスを選ぶわ」とのことでした。田尾さんがプロデュースする「日本の商店街に泊まる」という新しい旅のスタイルは、増えつつある外国人の個人旅行客の価値観にしっかり合っているようです。
2本連続でご紹介してきた、名古屋の訪日インバウンド。クリス・グレンさん、田尾さんをはじめ、名古屋の熱い取り組みがどんどんスピードアップしています。これからも続々と名古屋ならではの観光施策が繰り広げられていくことでしょう。そんな名古屋から今後も目が離せません。
(取材日:2016年4月7日)
プロフィール
田尾 大介 Daisuke Tao
株式会社ツーリズムデザイナーズ 代表取締役
愛知県よろず支援拠点 観光専門官
NPO法人ディスカバリージャパン 代表理事
旅行業界、経営教育業界を経て株式会社ツーリズムデザイナーズを起業
カリフォルニア大学バークレー校 IDPマーケティングプログラム修了
グロービス経営大学院 経営学修士(MBA)修了
Information
西アサヒ
愛知県名古屋市西区那古野1-6-13
「名古屋」駅より地下街ユニモールを抜け「国際センター」駅2番出口へ
地下鉄桜通線「国際センター」駅2番出口より北東へ徒歩5分
カフェ営業時間: 11:30~23:00
宿泊:チェックイン 15:00~22:00 チェックアウト ~11:00
TEL:052-551-6800
FAX:052-551-6801
「西アサヒに泊まってみました」の記事はこちら
https://digjapan.travel/blog/id=10583
西アサヒ オフィシャルサイト
http://www.nishiasahi.nagoya/
西アサヒ Facebook
https://www.facebook.com/Nishiasahi150401
西アサヒ twitter
https://twitter.com/nishiasahi
西アサヒ Instagram
https://www.instagram.com/nishiasahi_endoji/
株式会社ツーリズムデザイナーズ
http://tourismdesigners.com/index_ja.html
株式会社ツーリズムデザイナーズ FBページ
https://www.facebook.com/tourismdesigners/
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この記事は2016年06月01日の情報です。 文:Yuko Tsuruoka
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