オーストラリア人が提案する 世界目線の「NAGOYA」観光

STORY

 

熱中ニッポン vol.5
オーストラリア人が提案する
世界目線の「NAGOYA」観光

 

 
 

芸能、アート、農業、ファッション、音楽、IT企業など、さまざまなグラウンドで活躍するリーダーにフォーカスする熱中ニッポン。vol.5と6は「名古屋の訪日インバウンド」をテーマに、2本連続の名古屋特集でお届けします。

前半のvol.5は、名古屋のラジオDJで城、甲冑武具など日本の歴史文化に造詣が深い、オーストラリア出身のクリス・グレンさんにインタビュー。最近は外国人視点で日本の魅力をプロデュースする「観光アドバイザー」としてもご活躍のクリスさんに、名古屋のインバウンド事情について熱く語っていただきました。
 

世界に誇るマイホームキャッスル、名古屋城


桜が満開の名古屋城をクリスさんに案内してもらいながら、名古屋の訪日インバウンド事情についてお聴きしました。
 

戦国時代の歴史、甲冑武具、城などに詳しいクリス・グレンさん

戦国時代の歴史、甲冑武具、城などに詳しいクリス・グレンさん


― 日本各地の城に造詣が深いクリスさんですが、ここ名古屋城は500回以上も通っているって本当ですか?

クリス:僕が日本ではじめて見た城が名古屋城で、もう数えきれないくらい通っています。もちろん、年間パスポートも持ってます。いわば名古屋城は僕のマイホームキャッスル。何度来てもあきることのない、最愛の城が名古屋城です。

この名古屋城は残念ながら1945年の空襲で焼失してしまったのですが、西南隅櫓、東南隅櫓など現存している部分もあります。一般公開のときに何度も入ったことがありますが、中に入って見るとよりいっそう歴史を感じて感動します!僕はお仕事で名古屋城に来ることも多いけど、もちろんプライベートでもよく来ます。何度来ても新しい発見があるのが、名古屋城のすごいところです。

名古屋城再発見ツアーを自ら主催する

名古屋城の魅力を再発見するツアーを自ら主催する


201604201337_2.jpg― 名古屋城は現在本丸御殿を復元中ですが、クリスさんはこの事業の海外発信にも携わっていますね?

クリス:僕は名古屋城本丸御殿を海外に紹介する、英語版のパンフレットとWebサイトの制作をお手伝いしました。復元中の名古屋城本丸御殿は本当にすばらしいから、ぜひたくさんの人に見てほしいです。

2008年から復元工事が始まりまして、豪華で美しい本丸御殿がよみがえりつつあります。現在は玄関・表書院を公開していて、2016年6月1日からはいよいよ対面所と下御膳所が公開されます。復元には高級木材の木曽ヒノキが使われていて、襖絵や障壁画も本格的に復元されています。豪華ですよ。こうして建築当時と同じ状態の本丸御殿を見られるなんて、本当に貴重だと思うんです。だって、当時は殿様と面会を許される人しか見られなかったんですからね。

「本丸御殿を案内した外国人の友人は美しさの大喜びです」と語るクリスさん

「外国人の友人たちも、本丸御殿の美しさに大喜びです」と語るクリスさん


― 外国人の方に、日本と名古屋城の魅力を伝えるために、どんな工夫をされているのですか?

クリス:外国語の観光パンフレットやWebサイトは、日本語を翻訳しただけのものが多いでしょう?でも、それだと外国人が読んだ時、説明不足だったり、意味があいまいだったりして、わかりにくいことも多い。

例えば、日本人には徳川家康って言えば通じるけど、外国人にはそれだけじゃ伝わらない。「誰?」ってなっちゃう。それに、日本人が外国人のためを思って作ったデザインは、ネイティブが見るとちょっとおかしかったりするんです。日本の紹介なのに、わざわざモデルに外国人を入れていたりね(笑)。Webサイトを見た外国人が「ここ、行ってみたい!」と思うことが一番大事だから、外国人の視点で、外国人のニーズにあったパンフレットやWebサイトをつくることが重要ですね。

「パンフレットやWebサイトをただ翻訳しただけではダメ」

「パンフレットやWebサイトをただ翻訳しただけではダメ」


― 名古屋城は本丸御殿だけでなく、天守閣を木造で再建するプランもあるようですね?

クリス:日本に来た外国人は、本物の城が見たいんです。コンクリートじゃなくて、本格的な木造の城が見たい。名古屋城は昭和の精密な実測図や写真がたくさん残っていますから、ほぼ完全な状態で復元できる日本でも数少ない城です。

もし、名古屋城の天守が木造復元できたら、21世紀最大の木造建築にもなるし、世界からかなり注目を集めますよね。鉄筋コンクリートで作った城は、一定の時間がすぎれば老朽化してしまうけど、木造で再建すれば、100年、200年、ひょっとしたら1000年だって維持することができるかもしれない。そうなったら、国宝や世界遺産になることだって夢じゃないですよね?だから、時間もお金もかかりますけど、僕は名古屋城を木造で復元して、名古屋のシンボル、日本のシンボルとして世界に向けてアピールしていくべきだと思っています。

 

前世は日本人?日本文化の伝道師になるまで


― もともと、クリスさんが日本に興味を持ったきっかけは何だったのですか?
 

201604201337_5.jpgクリス:オーストラリアの祖父の家には日本のモノがたくさんありまして、それが僕と日本の出会いでした。祖父は学校の副校長をしていたんですが、第二次大戦のときには、オーストラリア軍として応召され日本軍とは敵同士の立場でした。でも戦後、祖父は学校を退職すると、かつて敵であった国「日本」の歴史や文化について深く知りたいと思ったようで、祖母と二人で2ヶ月ほど日本へ旅行をしました。そのせいもあって、祖父の家には置物や壷など日本のモノがあふれていたし、日本製の家電製品はもちろん、車も日本製でしたね。僕は子どもでしたけど、そんな祖父と日本の話をするうちに日本に興味がわいて、いつか日本に行きたい!と強く思うようになりました。

実際に夢がかなったのは1985 年、僕が16歳の時。ロータリークラブの交換留学生として札幌に1年間留学することになりました。もともと僕はチャレンジすることが大好きでしたから、母国との言葉の違いや文化の違いも、すべてチャレンジという感じで、それが楽しくてしかたなかったですね。

「行きたい国は日本、JAPAN 、ニッポンの3つしかなかった(笑)」とユーモアたっぷり

「行きたい国は日本、JAPAN 、ニッポンの3つしかなかった(笑)」とユーモアたっぷり


― なぜ、ここ名古屋でラジオDJになったのですか?

クリス:僕の夢はラジオDJかヘリコプターパイロットになること。ラッキーなことに、留学を終え母国へ帰国後、プロラジオDJになることができました。
でも、日本に戻りたい!という気持ちが強くて、1992年に再来日。はじめは東京のラジオ局と広告代理店で仕事をしていたんですが、半年たった頃、名古屋で新しいラジオ局が開局するというニュースを耳にしたんです。僕はもともと、名古屋城やサムライにあこがれを持っていましたから、当然のように応募したんですけど、周囲は「ええ?名古屋??」という感じでしたね(笑)。今は毎週日曜日、名古屋のZIP-FMで「RADIO ORBIT」という番組を担当しています。
 

「どーもどーもどーも!」でお馴染みのクリスさん。ラジオDJとしては30年のキャリアを持つ

「どーもどーもどーも!」でお馴染みのクリスさん。ラジオDJとしては30年のキャリアを持つ


― クリスさんは甲冑をご自分で制作されるほど詳しいですが、サムライに興味をもったきっかけは何ですか?

クリス:1960年代、オーストラリアでは「隠密剣士」など日本の時代劇が放送されていてましたので、サムライや忍者のことはテレビを通じて知っていました。「サムライ=日本」というイメージがあって、その頃からあこがれてましたね。サムライは戦う武士としてだけでなく、能や茶など芸能にも長けていて礼儀正しいところもすばらしいでしょう?甲冑姿の見た目だけでなく、サムライの精神や武士道といった本質的な部分にも強くひかれました。

自ら甲冑を作るほど甲冑武具が好き

自ら甲冑を作るほど甲冑武具が好き


― クリスさんはなぜ、そんなに日本を好きなんでしょう?

クリス:なぜでしょう(笑)。前世は、「関ヶ原の戦い」に参加した足軽だったかもね(笑)。日本にきてもう24年、人生の半分は日本にいますけど、今でも毎日、日本の新しい言葉、新しい文化に触れ、その刺激がとてもすばらしくて全然飽きない。もっとたくさんチャレンジもしたくて、やりたいことがいっぱい。日本のすばらしさを日本人はもちろん、海外にももっともっと紹介したいです。これはもう、僕のライフワークですね。

20年以上日本にいても、今でもずっと毎日がチャレンジ

20年以上日本にいても、今でもずっと毎日がチャレンジ
 

「NAGOYA???それ、どこ?」を解決するには


― 最近の訪日インバウンドブーム。クリスさんはどう捉えてますか?

クリス:このブームによって、外国人が日本を評価してくれる機会が増えました。そのおかげで、日本人がやっと、自分の国のすばらしさに興味を持ち始めてくれた。それが、よかったと思いますね。

これまで長い間、日本人はアメリカやヨーロッパにあこがれていて、日本のすばらしさが見えてなかった。日本人は近過ぎて日本の魅力が見えない。僕は全国で講演会をやってるけど、僕がその地域の魅力を話すと、日本人が「え?そうなの?」ってびっくりする。外国人の僕の方が日本の歴史や文化に詳しいから、「え?」ってなる。でも、それがきっかけになって、日本人が日本のことを学ぶきっかけになればいいなと思ってます。

自分の国の文化、魅力、いいコンテンツがあふれているのに、日本人はそれに気づいていないから、アピールできないのです。名古屋の人は名古屋城が当たり前過ぎて、どんなに立派な城かということに気づいていないから、当然、その魅力を発信できない。もったいないですよね。「おもてなし」っていうキーワードも流行ったけど、「おもてなしって何?」って日本人に聞いても答えられない人が多いです(笑)。

外国人だからこそ見える日本の良さがある

外国人だからこそ見える日本の良さがある


― 名古屋の訪日インバウンドをどう盛り上げますか?


クリス:まず、すごく大事なのは名古屋というエリアのネームバリューをもっと高めること。東京、大阪、京都、広島、札幌は世界的にネームバリューがあるけど、名古屋のネームバリューはかなり低い。「NAGOYA???それ、どこ?」ってなっちゃう。

では、名古屋で何をアピールするかというと、僕は「サムライ」だと思ってます。海外でもサムライはとても有名だし、人気もある。三英傑の信長、秀吉、家康をはじめ多くのサムライ(大名)がこの東海地方で生まれ、そのサムライたちが日本全国に散らばり、その地域で城を築き、街をつくり、文化をつくった。この名古屋というエリアは「サムライのふるさと」であり、日本という国のルーツと言ってもいいかもしれない。

サムライ以外にも、名古屋の魅力はたくさんあるけど、世界で名古屋のネームバリューを高めるためには、「サムライ」という言葉やストーリーのインパクトを使って発信していくことが重要だと思います。名古屋を盛り上げるために、仲間たちと一緒に考えたキャッチコピーは、「SAMURAI CITY NAGOYA」!世界に名古屋を発信するためには、これくらいのインパクトが必要ですね。
 

名古屋を「サムライシティ」のストーリーで世界に売り込んでいきたい

名古屋を「サムライシティ」のストーリーで世界に売り込んでいきたい


― サムライがエンターテイメント化している最近のトレンドについてはどう思いますか?

クリス:全国各地に武将隊ができたことで、若い人がサムライに興味を持ち、歴史や文化を学ぶきっかけになっているのはすごくいいこと。でも、それを見る相手が「外国人」になった場合、甲冑を着て歌ったり踊ったりするだけでは、満足できないという人たちがいるというのも事実です。ダンスしている武将隊を見て「なぜ、日本人は自分たちの歴史や文化を大切にしないんだ」という人もいます。

外国人(特に欧米人)の多くは、日本の「本物」を見たり、感じたりしたくて、日本に来ていますから、それをいかに満足させるかということも考えないといけないですね。外国人のほうが、日本の歴史や文化に詳しいようでは恥ずかしいですから、日本人はもっと自分の国の歴史や文化を学ばないといけないと思います。武将隊を通して歴史について学んでいる人たちも多いと思うから、そういう意味で、武将隊の果たしている役割は、とても大きいと思います。

 

ゲストハウス「西アサヒ」に寄贈した甲冑の前で

ゲストハウス「西アサヒ」に寄贈した甲冑の前で

外国人だからこそ気づく日本の観光業界の遅れ


― クリスさんは日本の観光ビジネスを見てきて、何が一番問題だと思いますか?

クリス:日本人が自分の国、地域、町の魅力を理解していないということかな。だから、今、一番大事なのは教育だと思います。自分の街を勉強して、何がワンアンドオンリーで、自分の街にどんなストーリーがあるのかを知る。そして、それを発信していくことが重要だと思います。まずは大人がしっかり勉強する。そしてその知識を子供たちにしっかり伝える。教育というと堅苦しいけど、自分の国や地域のルーツを教える、学ぶというのは、本来、楽しいことじゃないですか? 子ども達が自分の街に誇りを持てば、大人になって自分の街の魅力を世界に発信できるようになります。そうすれば、日本の未来は明るいと思いますよ!

― 日本の観光ビジネスの問題、他にもありますか?

クリス:自治体で観光ビジネスに携わる公務員の方達は、だいたい2、3年で異動してしまうので、いろんなことを形にしようと思っても途中で担当の人が変わっちゃって、その話自体がなくなってしまったり、前に進みそうで、進まないことも多い。ガッカリすることもありますよ。海外の場合、公務員でも、観光やマーケティング、ブランディングを専門的にやり続けることで、スキルを高めていくことのできる環境が整っていますから、そういう点は日本と大きく違います。観光やプロモーションという分野で日本は、かなり遅れをとっているという印象です。あとは、インバウンドということでいうと、言葉の壁も大きな問題ですよね。日本人は英語が苦手な人も多いので、日本の魅力を海外にうまく伝えられない。もったいないなぁ、と思います。

日本人自身が日本をもっと好きになって情報発信していってもらいたい

日本人自身が日本をもっと好きになって情報発信していってもらいたい


― 観光アドバイザーとして今後の活動は?

クリス:僕は日本のためにいろんなことをお手伝いしたいので、観光アドバイザーの仕事が増えているのはとてもうれしいです。メイドインジャパン=ものづくりが以前のようにチヤホヤされなくなっていますから、今後の日本経済にはツーリズムビジネスがとても大事だと思っています。日本のすばらしさ、日本のストーリーを日本人が語れるようになるように、僕は手伝いたい。外国人の視点で、日本の魅力、地域の魅力を見つける手伝いをしたいんです。それが、僕を受け入れてくれた、大好きな日本に対してできる恩返しですから。


「日本はツーリズムビジネスをもっと真剣に育てていくべき」と熱く語る

「日本はツーリズムビジネスをもっと真剣に育てていくべき」と熱く語る


― 2020年のオリンピックに向けては?

クリス:「2020年にむけて頑張ろう!」と、2020年をゴールのように思っている人が多いけど、僕は2020年をゴールだとは思いません。たしかに、2020年のオリンピックで、日本という国は注目されるかもしれないし、東京に来たついでに「京都へも行こうか」「箱根へも行こうか」と考える外国人もいると思うので、そのときの選択肢に入れてもらうために、愛知・名古屋も含め、世界的に見てネームバリューのない地域は、頑張ったほうがイイと思います。でもけっして、2020年はゴールじゃない。どんどん、その地域の魅力を掘り起こして、発信し続けることが大事です。

人口減少や経済のことを考えると「インバウンド観光」は、日本にとっても、地域にとっても大きなビジネスチャンス。日本全体が魅力的であることを世界に知ってもらうきっかけとして、2020年の東京オリンピックは、一つのチャンスだと思います。

― 最後に、読者へのメッセージを。

クリス:まず、自分の国、自分の地域をもっと深く勉強してほしい。オンリーワンを発見して、その魅力やストーリーを自信をもって発信ほしい。愛知・名古屋には、たくさんのサムライの生誕地があるけど、整備されていなくてボロボロだったりする。それを見ると、すごくもったいないと思うし、悲しくなります。地域の大切な宝物をちゃんと守って、それを誇りにして、日本国内にも、海外にも伝え続けていってほしい。自分の国、地域の魅力をしっかり掘り起こして、それを諦めずに伝え続けてほしい! 日本は、とても魅力のある素晴らしい国なんですから。


名古屋城が大好きなクリス・グレンさん

 

取材後記


「ニッポンのいいところ、ほんとに知ってる?」

ストレートな問いを穏やかな笑顔で投げてこられるクリスさんに、こちらが答えを躊躇してしまう場面もありました。歴史、文化、自然といった日本が本来持っている観光資源を外国人にアピールするには、発信する側に日本についての深い知識と広い経験が必要です。

DiGJAPAN!編集部は、各国の外国人記者が外国人目線での情報発信しています。日本の魅力を十分に知っているか、楽しめているか、「日本が好き!」という熱量は十分に強いか、そしてそれらをキープできるか。改めてその大切さを考えたインタビューでした。私もクリスさんに負けないようニッポンの魅力を学び続けて、いつかまた、クリスさんとお城談義ができる日を楽しみにしたいと思います。

(取材日:2016年4月6日)

熱中ニッポンvol.5取材後記名古屋城の前で

Profile

クリス・グレン Chris Glenn
オーストラリア出身、ラジオDJ、タレント。
趣味は戦国の歴史研究、城めぐり、甲冑武具の収集、古武道、ヘリコプターの操縦など。
ラジオDJとしては30年のキャリアがあり、現在は名古屋のFMラジオ局ZIP-FM「RADIO ORBIT」(毎週日曜9時~13時)を担当。日本の歴史・文化に造詣が深く、外国人視点で「日本の魅力」を語る講演や、歴史観光ツアーの企画、外国人向けインバウンド観光アドバイザーとして活躍中。

クリス・グレン オフィシャルサイト
http://www.chris-glenn.com/

クリス・グレン オフィシャルFacebook
https://www.facebook.com/ChrisGlennRadioDJ

クリス・グレン twitter
https://twitter.com/DJ_ChrisGlenn

 

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この記事は2016年05月25日の情報です。 文:Yuko Tsuruoka

 

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