観光で人口のV字回復できるのか?横須賀市長の挑戦

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観光で人口のV字回復できるのか?
横須賀市長の挑戦

 

 
 

東京の中心で横須賀を熱く語る「 YOKOS会議」


買い物客で賑わう、日曜日の銀座。この都心で市長、各界キーマン、シニアから大学生まで100名以上が集まり、3時間にもわたってひたらすら横須賀についてだけ語り合う「YOKOS会議(ヨコスカイギ)」が開催されていた。

最近、地方創生のイベントは数多く実施されているが、これだけの規模、豪華メンバーで、しかも地元ではなく都内で開催されるのは珍しい。横須賀といえば旧海軍の街で、どぶ板通りやよこすか海軍カレーなど観光でにぎわう人気エリアだ。そんな横須賀について、いったいどんな課題が3時間にもわたって議論されたのだろうか。

201607111812_1.jpg参加者同士も積極的に交流し会場全体が盛り上がる「YOKOS会議」

参加者同士も積極的に交流し会場全体が盛り上がる「YOKOS会議」

 

YOKOS会議に集う各界キーマン


この日、YOKOS会議の登壇者として集まっていたのは、コンサルティング、マーケティング、人材、アプリ開発、ベンチャーなど、様々な方面で第一線にいる豪華なリーダー達だ。安渕 聖司氏(GEキャピタル社長)、程 近智氏(アクセンチュア取締役会長)、宝珠山 卓志氏(D2C社長)、蓑口 恵美氏(ランサーズ 地方創生チーム)、宮田 正秀氏(カマコンメンバー)、相澤 謙一郎氏(タイムカプセル社長)、土屋 健司氏(linK supporTers 社長)、そして、この豪華メンバーの中心にいるのが横須賀の首長 吉田市長だ。

日本GE合同会社代表職務執行者社長兼CEO 安渕聖司氏

日本GE合同会社代表職務執行者社長兼CEO 安渕聖司氏
「ビジネスばかりが人を集める術ではない。横須賀はもっと多様性をアピールすべきだ」



アクセンチュア株式会社取締役会長 程近智氏
アクセンチュア株式会社取締役会長 程近智氏
「パラフルな若い人材が育ちつつある横須賀という土地に、強い吸引力を感じる」


株式会社D2C 代表取締役社長 宝珠山卓志氏
株式会社D2C 代表取締役社長 宝珠山卓志氏
「横須賀のような受容性の高い土地に、ヨソ者、バカ者が育つ」


蓑口 恵美 ランサーズ株式会社 地方創生チーム
蓑口 恵美 ランサーズ株式会社 地方創生チーム
「シリコンバレーの25%は外国人が起業した会社。
横須賀も外の人を取り入れていくことが重要」



相澤 謙一郎 タイムカプセル株式会社 代表取締役
相澤 謙一郎 タイムカプセル株式会社 代表取締役
「横須賀に職場を作り、地元の人材を育て、世界に発信できるアプリを作りたい」


YOKOS会議で誰よりも熱く語る 吉田雄人市長
YOKOS会議で誰よりも熱く語る 吉田雄人市長
横須賀の人気商品「ネイビーパーカー」を着て会場を盛り上げる


 

10年後、100社、100億円にコミットするチーム


YOKOS会議を仕掛けたのは、他でもない吉田市長自身が中心となって発足したヨコスカバレーという活動組織だ。ヨコスカバレーは、ICT企業の集積地横須賀を目指して、2015年7月1日にスタートしている。

「10年後までにICT事業者100社の市内集積、100億円の経済効果」の目標を掲げ、スタートアップ支援・企業誘致・学生へのICT教育・クリエイターが活動しやすい環境づくりなどに取り組んできた。YOKOS会議は、ヨコスカバレー発足から1年目の活動報告のためのイベントだったのだ。


YOKOS会議を盛り上げるヨコスカバレーと関係者
YOKOS会議を盛り上げるヨコスカバレーと関係者

 

首都圏なのに人口流出ワースト2位?
横須賀市の焦りとは

 
3時間にもわたるYOKOS会議で、繰り返し登場したキーワードが「人口減少」だ。実際に横須賀に行ってみると、中心部にはタワーマンションがそびえ立ち、幹線道路沿いには巨大なイオンや飲食店が並ぶ。子育て世代からシニア世代まで、一見すると街は賑わっていて人口減少のイメージとは遠い。しかし、2015年の転出超過数は全国でワースト2位、というのが横須賀市の実態だ。

人口減少の大きな要因として、谷戸(やと)と呼ばれる山間部で空き家が増加していることや、工場地帯と横須賀リサーチパーク(YRP)からの大企業の撤退などが挙げられる。吉田市長によると、大企業の撤退の影響は特に大きく、撤退後約2年間は市からの転出が断続的に増えていったという。

横須賀市の人口流出問題について自ら説明する吉田市長
横須賀市の人口流出問題について自ら説明する吉田市長
 

ITで復活せよ!谷戸とYRPの再活用


ヨコスカバレーでは、ITを活用した谷戸、横須賀リサーチパークの再利用に積極的だ。ヨコスカバレーボードメンバーで、アプリ開発を手がけるタイムカプセル株式会社の相澤社長は、谷戸地区にある空き家をリノベーションし「横須賀谷戸オフィス」として活用している。また、都内のIT企業を対象に横須賀リサーチパークでオフサイトミーティングを行う際、宿泊費や飲食費を横須賀市が費用負担する「YOKOSUKA IT Camp」は募集後すぐに満員御礼になる人気ぶりだ。

長い階段を登らねばならない谷戸や、駅から離れた丘陵地にたあるYRP。一見、どちらも不便そうに見えるが、実はインターネットがあればどこでも仕事ができ、都心から離れ落ち着いて開発に集中できる点でIT企業との相性が良い。ヨコスカバレーでは、この他にも無料プログラミング講座、ドローンの活用、アイデアソン・ハッカソンなど、横須賀市をICT企業の集積地にするためのユニークなプロジェクトを行っている。
 
谷戸地区にある空き家をリノベーションした「横須賀谷戸オフィス」
谷戸地区にある空き家をリノベーションした「横須賀谷戸オフィス」

横須賀リサーチパークを活用した「YOKOSUKA IT Camp」は即日完売した
横須賀リサーチパークを活用した「YOKOSUKA IT Camp」は即日完売した

 

企業集積だけでは人口増加は限定的?


YOKOS会議での報告によると、ヨコスカバレーでITを活用した様々な取組みをしてきた吉田市長の思惑は、これまでのところ成功していると言えそうだ。ただし、企業集積だけで本当に定住人口の増加が見込めるのだろうか。

例えば、ベンチャー企業を誘致しても、成長に合わせより利便性の高いエリアへ移転してしまうかもしれない。また、在宅勤務の促進、AIの活用、スモールビジネスの増加で、そもそも大きなオフィスや大量の従業員を必ずしも必要としなくなることも考えられる。企業集積以外の人口増加策について、YOKOS会議後に吉田市長に尋ねる機会を得た。
 

「観光でさらなる人口増加を目指したい」と語る吉田市長
「観光でさらなる人口増加を目指したい」と語る吉田市長

「減った分の人口の消費のパイを外からのお客さんで補いたい、つまり、横須賀にとって観光はとても重要なカギなんです」と吉田市長は語り始めた。

横須賀の重要な観光資源といえば旧海軍の歴史。ノスタルジックなものに惹かれるシニア世代をターゲットに、三浦半島の新鮮な魚介類、朝どれの野菜なども紹介すれば、消費意欲をかき立てられそうだ。また、ネイビーバーガー、チーズケーキなど、若い世代に刺さりそうなコンテンツも揃っている。東京湾唯一の無人島猿島は、専門のガイドも養成し自然と触れあう旅を楽しめるという。ただし、「観光施設、エッジの効いたグルメも増えてきたが、それらが有機的につながっていないのが横須賀の観光の課題」だと市長は語る。

また、吉田市長は三浦半島サミットにも熱心に取り組んでいる。三浦半島4市1町(横須賀市・葉山町・鎌倉市・逗子市・三浦市)の市長・町長が定期的にサミットを開催。「行政区分を超えて人の流れを構築することで、三浦半島全体の観光人口を増加させることができる」と言う。たとえば、これまで鎌倉は日帰りで訪れる人が多かったが、少し足を伸ばして三浦半島で宿泊してもらうことで、鎌倉周辺の車の渋滞も緩和できそうだ。生活者と旅行者双方がwin-winの関係を構築することで、「住み良い街」が「訪れたい街」になるという。

 

インバウンドという最大のチャンス到来


観光人口にねらいを定めた横須賀が、出遅れているのがインバウンド施策だ。羽田から1時間弱という立地の良さに加え、横須賀には米海軍の施設があり、約15,000人も外国人が住んでいると言われている。地図やメニューの英語表記やドルで決済できる店もある。「ドル旅」というフレーズで、タンスに眠っているドルを使ってもらおうという日本人向けの取組みもキャッチーだ。インバウンド観光の増加は、横須賀にとって最大のチャンスと言っても過言ではない。ただ、ここでも「外国人旅行者に合わせた、横須賀の魅力のストーリーづくり」は重要だ。特に、インバウンドで大きな割合を占めるアジアからの集客について、横須賀の観光施策はまだ始まったばかりだ。

日本人には人気の「軍港めぐり」だがインバウンドではどうか?
日本人には人気の「軍港めぐり」だがインバウンドではどうか?

 

吉田市長の次なる切り札は「観光人口増加ユニット」


吉田市長が観光人口増加の切り札とするのがヨコスカバレーの「観光人口増加ユニット」だ。このユニットを牽引するのは、ヨコスカバレーボードメンバーの土屋 健司氏だ。土屋氏は地方創生のコンサルティングや移動販売車のレンタル事業などを手掛けていて、各地の観光施策についても明るい。そんな土屋氏はYOKOS会議で、横須賀の観光の課題としてSNSなどの連動の弱さ、インバウンド対応の遅れなどを指摘している。

株式会社linK supporTers 代表取締役社長 ​土屋 健司氏
株式会社linK supporTers 代表取締役社長 土屋 健司氏
「横須賀市を外国人観光客に魅力的な街にしていきたい」

横須賀のSNSとの連動の弱さを指摘する土屋氏
横須賀のSNSとの連動の弱さを指摘する土屋氏
 

外国人旅行者から見た横須賀の魅力


では、横須賀を訪れた外国人は、どのようなスポットを楽しんでいるのだろうか。

実際に横須賀を旅したタイ人にインタビューしたところ、鯉のぼりが泳ぐ風景、ゴジラのすべり台、安くて美味しかったまぐろ丼などの写真を見せてくれた。軍港めぐり、よこすか海軍カレー、ネイビーバーガーなど、日本人には人気のある観光コンテンツよりも、こうした日本らしい風景、SNSで投稿したくなるようなユニークなスポットに興味が高いようだ。

 
実際に横須賀を旅行しているタイ人
横須賀を旅行するタイ人
鯉のぼりなど日本ならではの風景を撮影してFacebookでシェアする


 
横須賀市のくりはま花の国にあるゴジラの滑り台
横須賀市のくりはま花の国にあるゴジラの滑り台
ここも外国人にとってはFacebookに投稿する絶好の撮影スポット

 

日本人に人気の観光資源をそのまま外国人に提案しても人気が出ないことがあり、一方で、地元の人にとっては何気ないもの、イチオシではないものでも、外国人に人気が出てしまうのはインバウンドではよくあることだ。

おそらく、横須賀にはまだまだ外国人に人気が出る、隠れたコンテンツがあちらこちらに眠っていることだろう。これを発掘し、クチコミの波に乗せて海外に情報を運べるかが、横須賀のインバウンドの成功の鍵になるだろう。



 

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この記事は2016年07月29日の情報です。 文:Yuko Tsuruoka

 

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