STORY
熱中ニッポン vol.7
日本はホントにクールなの?
ミサコ・ロックスが語る日本らしさとは
芸能、アート、農業、ファッション、音楽、ITなど、さまざまなグラウンドで活躍するリーダーに取材する「熱中ニッポン」。vol.7は、ニューヨーク在住の漫画家ミサコ・ロックスさんにインタビュー。
現在は日本とニューヨークを往復しながら、漫画家とモチベーショナルスピーカーという二足のわらじで活躍の幅を広げているミサコさん。ニューヨークに住んでいる漫画家のミサコさんから見て、訪日インバウンドブームや「クールジャパン」はどう見えるのか、率直な意見を聴いてみました。「失敗こそ宝の山」と語る、波瀾万丈なミサコさんの人生観にも注目です。
ニューヨークから日本に戻ると感じる”違和感”
ー 普段はニューヨークのブルックリンに住んでいるミサコさんですが、久しぶりに日本に来て感じたことはありますか?
ミサコ:日本は3ヶ月ぶり。去年は1年に4回来ていますから、日本とニューヨークを行ったり来たりといった感じですね。ただ、基本的にはニューヨークに住んでいてアメリカのルールの中で生活していますから、久しぶりに日本に来ると、道路にゴミ捨てないとか、街がきれいでみんなマナーを守っているところとか、やっぱりすごいなって思いますね。日本人はそれが普通だと思うでしょうけど、ニューヨーク基準で見れば街が安全で常にきれいということは本当にすごいことなんですよ。
ただ、ニューヨークから日本に時々戻る私から見ると、最近、日本が少し変わってきているように思えます。何となくですが、日本人が心の扉を閉ざしているような感覚を持つことが増えてきました。例えば、久しぶりに東京の地下鉄に乗った時の話ですが、これも日本人には当たり前かもしれないけど、みんながスマホ見ているのにすごくビックリした!以前から携帯や本を見ている人はいたけど、今は「全員か!」って言うくらい、スマホいじっている車内の光景にはちょっと唖然としてしまいましたね。スマホ見ていてお年寄りに電車の席をゆずらない人とか、スマホに夢中でぶつかったときに謝らない人が増えたような気もします。スマホは便利だけど、そうした電車の光景は見ていてなんだか残念だなって気がしたんです。
ー なるほど。他にもニューヨークと比べて、日本に戻ってくると違いを感じることはありますか?
ミサコ:お店のサービスに少し違和感がありますね。例えば、コーヒーショップに行ったときには、日本だとものすごく丁寧にオーダーを取ってくれたりしますよね。しかも、すごく笑顔で。同じブランドのショップなら、どのエリアのどのコーヒーショップに行っても、お店のサービスはほぼ一緒(笑)。お客が子どもだったとしても、丁寧に扱ってくれたりします。日本人にはそういうサービスが安心で心地いいのかもしれないのですが、私から見るとなんだか画一的でロボットっぽく見えるんですよ。
一見すると丁寧で優しい笑顔で良いサービスと言えるのですが、もうちょっとサービスする人やサービスする相手によって、パーソナリティを入れてもいいんじゃないかって感じるんです。どんなに優しい接客されたとしても、みんな一緒の態度では心にないことを言われているような気がしてしまって。日本企業は詳細なマニュアルや正確性の高いオペレーションに定評があるけど、基本的なルールの上に載せるサービスはもう少し多様性があってもいいような気がするな。そしたら、他の国には真似できない、すばらしいサービスになると思います。
大好きなアメリカへ飛び込んだ青春時代
ー 「ニューヨークで活躍する日本人女性」に選出され、安倍首相夫妻の懇親会にも招かれたミサコ・ロックスさんですが、そもそも渡米のきっかけは何だったのでしょうか?
ミサコ:子どもの頃に観た映画『バック・トゥーチャー』のマイケル・J・フォックスにひとめ惚れしたのが、アメリカを好きになったきっかけ。私、中学時代は成績がすごく悪い方だったのだけど、アメリカ行くってことは決めていました。それで、マイケルの映画の字幕を隠して、独学で英語を勉強しました。大学時代にはじめてアメリカに留学したのですが、留学先がミズーリ州のすごい田舎で(笑)。あこがれていたアメリカの生活っていう感じではなかったし、人種差別を受けたり、コミュニケーションが上手くいかなかったり、最初は理想と現実のギャップで心が折れそうになりましたね。どうもアメリカ人からみると、アジア人は表情の変化が少なくて何を考えているかわかりにくいようなのです。
それで私は日本人留学生とつるむのをやめ、ヘアカラーで髪を赤やピンクにして目立つようにしました。集団の中で埋もれそうになったときは、自分を目立たせることも大事。あと、自分の考えをしっかり持って意見を言えるアメリカ人に影響を受けて、私もアメリカ人に自分から質問したりして積極的に会話するようにするようにしました。そうするうちにアメリカ人の仲間がどんどん増え、アメリカをもっと大好きになりました。
ー 日本に帰国して普通なら就職活動となるわけですが、ミサコさんは再びアメリカを目指したのですよね。ご両親は反対されませんでしたか?
ミサコ:私の両親は公務員でまじめな家庭だったので、反対はしていましたよね。でも、アメリカで暮らしたい気持ちは強かったから、インターネットでニューヨークの劇団の美術スタッフの仕事を見つけて応募してしまいました。ビザもなんとか取得して、再渡米しました。その時はライオンキングの人形師になるのが目標で、舞台美術の仕事を頑張っていたのですけど、それは長く続かなかった。お金にならないレベルの仕事だったし、私が自分自身の可能性を信じられなくて。これが最初の失敗ですね。
その後、9.11が起きてニューヨークはパニック状態になっちゃったり、大家さんに突然家を追い出されたりして、一時は公園でホームレスもしました。お金もつきてしまい、ゴミ箱の中からまだ食べられるものを拾って食べたり。なんとか中学校の美術講師のバイトなどで生活を立て直して、その頃知り合ったイケメンのアメリカ人男性と国際結婚。ところが、あこがれていたアメリカ人との結婚生活は長続きしなくて・・・。仕事も結婚も上手くいかなくて、一時はストレスで睡眠不足になり、睡眠薬や精神安定剤で身体も精神もボロボロの状態にまでなりました。
失敗のどん底から一転、漫画家の道へ
ー どん底まで落ちた後、漫画家になる決意をされたのですよね。ペンを握るきっかけは何だったのですか?
ミサコ:ウィスコンシン州で7つのバイトを掛け持ちしてなんとか暮らしてた頃、子供美術館の受付で、あるアメリカ人の子供がドラゴンボール持ってきて、「日本人でしょ?この漫画知ってる?」と見せてきたのです。「どこで日本の漫画手に入るのか?」とその子に聞いたら、「図書館に行くと沢山あるよ」と言われて。それで、図書館に行ってみたらアメコミと日本の漫画が沢山あって、それを見た時にこれだーー!!とひらめいたんです。その頃、もう離婚するかしないかの修羅場で真っ暗な闇の中にいたので、一筋の光が見えたような気がしました。「私のように波乱万丈な人生送ってるアジア人女子の話を漫画で描いたら絶対ウケる!」と思ったのです。
もちろん、それまで私は漫画を描いたことないですから、独学で一から勉強しました。アメリカ人にウケる様に、漫画のタッチやストーリーもアメリカ人向けにアレンジしました。何社もの出版社に自分自身で売り込んで、ようやくある出版社に本を出してもらえることになったのです。ヒラメキと直感で道を拓いたら、あとは強いパッションと行動力で道を進むだけ。それまでにさんざん失敗してどん底にいましたから、落ちるとこまで落ちたからこそ、道が拓けた、チャンスに気づけたのだと思います。
自伝的漫画 『Rock and Roll Love』より
また、漫画家でやっていくための作戦として、自分の見た目も変えました。競争が厳しいニューヨークでやっていくためには、強い個性が必要です。黒くて長い髪と黒ふちのメガネで、「漫画に出てきそうなキャラ」で勝負していこうって決めたの。ニューヨークでは「ジャパニーズガール」であることと、「漫画家キャラ」の2つが、ミサコ・ロックスのトレードマークであり、そのことが私の描く作品を後押ししてくれています。ニューヨークでは待っているだけじゃ始まらない。どんなにいい作品を描いても、出版してもらって、宣伝してもらって、書店に置いてもらわないと読者に届かない。そのためには自分自身も積極的にアピールしていかないとね。
モチベーショナルスピーカーというもう1つの柱
ー 漫画家の仕事とは別に、モチベーショナルスピーカーの仕事もされていますよね。モチベーショナルスピーカーって日本ではあまり聞かない職業なのですが、いったいどんな仕事なのでしょうか。
ミサコ:モチベーショナルスピーカーとは、全米の学校によく訪れるスピーカーの事です。彼らは波乱万丈な人生を送ったり、はたまた更生した人達が多いです。彼らの経験を元にして、生徒達に勇気やチャレンジ精神も持ってもらうためにスピーチをします。私の場合は、日本人として一人でアメリカに渡米し学生時代から仕事を続ける中で、どうやって様々な葛藤や障害にも負けずに前に進んでいるか、そしてアメリカ人に負けないで戦っているのかをスライドショーを使いながら話します。アメリカはインターナショナルな国だから、こうして比較文化を出来るスピーカーも好まれるので、小中高校、大学でもスピーチをしています。メトロポリタン美術館とプリンストン大学では講演だけでなく漫画教室も実施してますが、どちらもとても好評でした。
メトロポリタン美術館にて
プリンストン大学にて
ミサコ・ロックスのパワーの源泉
ー 波瀾万丈な人生を乗り越える強さや力は、いったいどこから生まれているのでしょうか。
ミサコ:私がなぜ、いろいろなことに勇気を持ってチャレンジできるかというと、私が17歳のときに幼なじみが急死したことが影響しています。今まで目の前にいた子が突然、いなくなってしまうという体験はかなりショックでした。今、こうやって生きているだけでもありがたいことで、やりたいことが一つでもあったらチャレンジしないともったいないって思ったの。
その後、アメリカに来てからなのですが、私のいとこが40歳の時に事故で亡くなってしまったことも影響しています。日本とアメリカで遠く離れていても、応援してくれている親戚がいるってすごくうれしかったんですよ。それからは、亡くなった彼の分までがんばらないといけないって、彼の死が私の活力になっています。悲しみはエネルギーに変化してくれて、私の背中を強く押してくれていると思っています。私は身近な人の死を若い頃から経験して「明日があるとは限らない」って思えたことが、迷ったら一歩踏み出してみる、後悔するよりチャレンジしてみる、というミサコ・ロックスを作ってくれているのだと思います。
ー 上手くいかない時にポジティブな自分になる技やコツはありますか?
ミサコ:私は小学生の時、1年間いじめられたのですけど、周囲にわかってもらえない時は、自分のことを肯定してくれる人を探すのが大事。結局、人は一人では無理だから、応援してくれるメンターや仲間を作って、「できるんだ、できるんだ」って背中を押してもらう。たとえ解決策が見つからなくても、一緒に考えてくれる人がいるっていうのが大事なのです。
今でもニューヨークにいると、自分自身がものすごくちっぽけに感じる時があります。結果を出せてないなって。でも、たまに友だちと会って語ると、ものすごく優秀そうな人でも私と同じような悩み抱えてたりして、落ち込んでるのは私一人じゃないんだなって思えたりします。そんな風に、自分の悩みを正直に言える相手を持っておくといいと思います。
ニューヨークの漫画家は最近のニッポンをどう観察してる?
ー ニューヨーク在住のミサコさんから見て、「クールジャパン」ってどう思いますか?そもそもニューヨークの人達は日本のこと、「クール」って思ってるんでしょうか?
ミサコ:昔の方がクールって思ってたんじゃないかな?日本の電化製品とかとにかく進んでいたから。今はどっちかっていうと、ピースフルジャパンって感じかな。昔ほど、日本に近未来的なイメージを持っていないと思う。アニメや漫画はアメリカではクールという分類ではないな。そもそも人の評価は別々で、「日本=クール」って一つにイメージを決めちゃうことの方に疑問を感じるな。
日本の「おもてなし力」が日本で再認識されているみたいだけど、日本のおもてなしは、外国人によっては過剰な感じに思われることもあるかもね。欧米の外国人から見れば、サービスは必要なレベルだけみてくれれば大丈夫で、自分でやれる分は自分でやりたいと思っている人が多いんじゃないかな。もし、助けが必要ならこちらから聞くから。
ー 日本がもっとアピールした方がいいところはどんなところですか?
ミサコ:もっと日本の普通のところに、アメリカ人はすごいって思うよ。例えば、レストランのおしぼり。これ、すごくいい!カフェに行っても、パン屋に行っても、おしぼりやウェットティッシュみたいなのをくれるでしょう?パン屋はパン1つ1つをビニールに分けていれてくれるし。こういう気配りがすごいって思うし、うれしいところ。あと、日本のお弁当箱もすごく人気。日本人が日常で使っているお弁当箱や、おかずの仕切りやピンとかプラスティックでできているお弁当グッズもかわいい。バンダナでお弁当を包むところもすてき。これをアメリカ人のティーンが見たらはまると思う。アメリカのお弁当はリンゴとパンをジップロックに入れるだから(笑)。
それから、座布団。畳の上に座布団で座ってみるのも日本らしい体験になるよ。サムライ体験も悪くないけど、日本に今、サムライがいるわけじゃないしね。あとは、透明のビニール傘。アメリカ人は少しの雨くらいなら傘はささないし、もし、あったとしても真っ黒な傘がほとんど。映画『ロスト・イン・トランスレーション』で知られるようになって。私もビニール傘持ってたら、「どこで買ったの?」って聴かれました。
日本人は普通に使っているちょっとしたコトやモノが、アメリカ人のツボにはまる。だから、日本人がいつもしているように暮らしていれば、それがアメリカ人には感動のツボだったりするから、すごいおもてなしとかあまり考え過ぎなくていいと思う。なんかね、日本は無理して外国人にモテようとしてるんじゃないかな。付き合ったことないのに。無理して背伸びしなくても、肩の力を抜いてそのままがいい。日本に来るアメリカ人は日本が好きで来てるわけだから、いつもの日本が見たいだけなんです。日本人は少しリラックスして、普段の日本を堂々と見せればそれが一番良いんじゃないかな。
ストリートスマートの強みを活かして
ー 今後、ミサコさんはどんな新しいチャレンジをするのでしょうか?
ミサコ:私はニューヨークの最新の情報を知ってることと、アメリカと日本の比較文化がわかるのが強み。今後は、ニューヨークと日本を行ったり来たりしながら、海外から日本にメッセージを送ったり、日本からアメリカに情報発信してみたいです。
また、力を入れていきたいのが「生きる教育」。英語の表現で、「ブックスマート(学業として知識豊富な人)、ストリートスマート(現場対応力がある人)」というのがあるけど、私はストリートスマートな人。大学で学んだわけじゃないけど、生きながら多様な人達の中で自分のやりたいことを進める術を身につけてきました。その技術を国際社会で活躍したいと思っている人に伝授していきたい、と思っています。母校である法政大学の国際教養学部でも講演させてもらう予定です。
ー 最後に、読者にメッセージをお願いします。
これから海外に進出し世界を股に活躍したい!と思っている貴方へ。
遠慮はいりません!特にNYのような実力社会を相手にしたいなら、”空気を読む””協調性を大切に”という思考は省くのがベストです。出る杭は打たれると日本語でありますが、出る杭はドンドン伸びて成長する!のが海外です。恥ずかしいと思っているのは自分だけ。意外に出来る自分がいますから!とにかく一歩前に行きましょう!
取材後記
はじめてミサコさんに会ったのは、根津にあるベジタリアン対応ができるレストランでランチをしたときでした。ベジタリアンのミサコさんによると、最近は東京でもベジタリアン対応ができる店が増えてきてうれしいそうです。「おもてなし」の名のもとに少し過剰なサービスはあるけど、ベジタリアン対応、ハラール対応など本当に欲しいものはまだ足りなかったりする日本。外国人旅行者の受入については外国人目線が大事なのはもちろんのこと、ミサコさんのように「外の視点」を持っている日本人の意見もとても大事な気がしています。
Profile
ミサコ・ロックス MISAKO ROCKSニューヨーク在住のコミック・アーティスト 兼 モチベーショナルスピーカー。
日本とニューヨークでコミック、エッセイなど出版しながら、全米各地の小中学校やコロンビア大学、メトロポリタン美術館などで講演会、ワークショップを開催。
2010年度 日経ウーマン ウーマンオブザイヤー キャリアクリエイト部門受賞
2013年9月 安倍総理夫妻NY懇談会:NYで活躍する日本人女性5人
著書
「理由とか目的とか何だっていいじゃん! チャレンジしなくちゃ後悔もできない! ニューヨーク流 自分を解き放つ生き方」「もうガイジンにしました。」ほか
ミサコ・ロックス!NY毒舌ライフ
http://ameblo.jp/misakorocks/
ミサコ・ロックス!公式Webサイト
http://www.misakorocks.com
ミサコ・ロックス!Instagram
Instagram/@misakorocks
ミサコ・ロックス! Facebook
Facebook/misakorocks
ミサコ・ロックス! Twitter
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この記事は2017年01月18日の情報です。 文:Yuko Tsuruoka
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