「お雑煮?うちのは普通だよ」。実は、そんなことないんです!日本全国で「お雑煮」とよばれているもののレシピは実に100種類以上。あなたが「普通」と思っていたそのお雑煮、実はとっても個性的な一品かもしれません。今回はお雑煮マイスターの粕谷浩子さんをゲストに、そんな日本の究極のローカルフード、「お雑煮」ワールドについて教えていただきました。
「お雑煮といえば、具材はブリだよね。もちろんアゴ出汁※1で」
「え?うちはすまし仕立てで、ナルトやシイタケ※2が入っていたかな」
「白みそに丸餅に里芋に…そうそう、金時ニンジン※3は欠かせないよね」
「出汁は煮干しだったかな。くるみだれと一緒に食べるの。お餅は焼いた角餅※4でしょ?」
「うちはすまし仕立てで、ゴボウとニンジンと…あん餅※5が入ってたよ?」
「うちもあん餅だ!でも白みそ仕立て※6だった」
「うちのお雑煮、茶碗蒸しみたいな感じ※7だけど…」
「「「え~っ!?」」」
同じ名前の料理なのに、地域によってこんなにも異なる料理…それが「お雑煮」。日本のお正月には欠かせない定番メニューです。
(ちなみにそれぞれ、※1 福岡・博多 ※2 埼玉・上尾 ※3 京都 ※4 岩手・宮古 ※5 大分 ※6 香川・善通寺 ※7 福岡・朝倉地域 でのコメントです。)
そもそもお雑煮は、お正月に年神様を迎えるためにお供えした地場の産物をお餅と一緒に一つの鍋で煮て、神様と一緒に食事をするという風習です。そのため、海辺なら海産物が、山間部なら山菜が…といったように、その地域の特色が色濃く反映されてきたのです。
実は、日本全国で「お雑煮」と称される料理は100種類以上!お餅の形や出汁の種類にとどまらず、魚が丸ごと1尾入っていたり、普段は食卓に並ばない郷土野菜が入っていたりと本当にバリエーション豊か。しかも、市区町村やかつての州藩の区画を境に、数軒隣からは全く違う「お雑煮」が食べられている、ということもよくあるんだそう。
今回はそんなお雑煮の魅力や個性的なお雑煮のご紹介と、普段の食事としても食べたくなる、簡単でおいしいお雑煮レシピまで、盛りだくさんでご紹介します!
今回は、株式会社お雑煮やさんの代表で、お雑煮マイスターの粕谷 浩子さんに、お雑煮の魅力について聞きました!全国津々浦々を取材して、ご当地のお雑煮情報を収集する粕谷さん。そのお雑煮愛は、どこから来るのでしょうか?
子供の頃は親の転勤のため、鳥取、北海道、新潟、静岡、広島と引っ越しを繰り返していました。そのため、その土地ならではのお雑煮に出会う機会は普通の方より多かったんです。だから、転校した先々で「えっ、これもお雑煮?」という体験もしばしば!同じ「お雑煮」という名前なのに、それぞれの頭の中で思い描いているイメージは全然違う。そんな料理ってなかなかありませんよね。
お雑煮の一番面白いところは、家庭料理だというところだと思うんです。でも、みんなそれぞれの「普通」を集めて並べてみると、どれもぜんぜん違う。どれも個性的で、とっても魅力的です。
日本全国、代表的なものだけでも100種類をゆうに超える数のお雑煮がありますが、どうしてそんなにいろいろな種類のお雑煮ができたんだと思いますか?それは、お雑煮が「料理人の料理」ではなく、「ハレの日の家庭料理」だったからだと思うのです。
年に一度のお正月、お祝いの、ハレの日には、普段は家族や親戚が集いますよね。よその地域から嫁いできた人や普段は離れた場所に住んでいる人も、その日だけは一緒に同じ料理を食べる。お雑煮がいわば閉ざされた家庭のなかだけの文化だったからこそ、社会や時代の影響を受けずに、ゆるやかに伝承されることができたのではないでしょうか。
お雑煮の「関東風・関西風」の話は、この時期テレビなどでも取り上げられることが多く、聞いたことがある方も多いのでは?
お雑煮に入れるのは丸餅か角餅か…という疑問に対して、「西は丸餅・東は角餅」とよくいわれます。岐阜県の関ヶ原あたりがお餅の境界線といわれていますね。よって、その境界線上にある福井県や三重県は丸餅と角餅が混在する「お雑煮境界線」になっています。
こんな風に、日本を大きく分断するような境界線がある一方で、ピンポイントで個性的なお雑煮文化を持つ地域もあります。それが福岡県朝倉市郡地域。ここのお雑煮はなんと、「蒸し雑煮」なんですよ!
お雑煮も数多くあるけれど、とうとう蒸されているものまで出てきた!と、私はウキャキャと大はしゃぎしてしまいましたよ。筑前煮のような里芋、レンコン等の根菜類と丸餅を、出汁・卵液と一緒に蒸す!まるで茶碗蒸しのようなこの蒸し雑煮は、お餅がつきたてのお餅と変わらないほどの柔らかさに仕上がって、とってもおいしいんです!
蒸し雑煮は、朝倉市内でも秋月、三奈木、甘木、そして筑前町の三輪、東峰村の一部で食べられているもので、同じ小学校の学区内でも全然違うタイプの雑煮が混在しているんだとか。
お雑煮の面白さのポイントのひとつは、同じ県内であっても、同じ市内であっても、必ずしも同じお雑煮というわけではないということですね。他の地域にも、こんなユニークなご当地のお雑煮がまだまだ眠っているんじゃないか、と思うと、もっともっと調べてみたくなります!
私が全国各地のお雑煮を皆さんに紹介したり、それを手軽に食べられる商品にしたりしているのには、普段は知ることができない「よそのお家のお雑煮」を知ることで、自分のお家のお雑煮を見直してもらいたい!という気持ちがあるんです。
他の文化を知ることは、自分たちの文化を愛おしむことにもつながりますよね。海外に出て海外の文化を知ってはじめて、あぁ、日本文化ってこういうものなんだなぁ、って見直すような、そんな感覚です。
こんなに個性的で、面白くて、おいしいお雑煮を、お家の中だけのもの、お正月だけのものにしておくのはもったいない!普段から軽食として食べたり、みんなが集まったときにお雑煮の食べ比べをしたり…お雑煮がもっと身近なものになれば素敵ですよね。
お雑煮=お正月のイメージがとても強いので(だからこそ長年続いてきたのですが)、お正月以外にお雑煮を食べる、という提案にびっくりされることも多いですが、全国各地で特産品開発・まちおこしみたいな感覚でどんどんご当地雑煮商品がでてくるといいな、と思っているんです。
日本のお寿司は、今や「SUSHI」として世界中で親しまれていますよね。それと同じように、スープの中に餅が入った「ZOUNI」というスタイルも、日本の出汁文化と共に世界中に広がっていけばいいな、と思っています。
まずは日本で、そして世界へ!これからもお雑煮の調査や商品開発を続けていくつもりです。
日本中のお雑煮を調べていくと、「あんなのも、こんなのも、お雑煮なんだ!」という新しい発見の連続です。さらに、見た目や具材の違いからわかるその地域の文化や特徴は調べれば調べるほど面白い!
数あるお雑煮のなかから、おいしい、珍しい、面白い!が詰まったお雑煮を少しだけ紹介してもらいました。
岩手・宮古のくるみ雑煮
岩手の宮古地方に伝わる一般的なお雑煮は、煮干し出汁のすまし仕立てです。お餅は焼いた角餅で、ゴボウはささがきに。ほかの具材はすべて千切りにしています。東北地域では千切り野菜のお雑煮がポピュラーですね。また、寒い地方は凍り豆腐を入れるところも多いようです。
岩手宮古のお雑煮の最大の特徴は、添えられたくるみだれです。これは、乾煎りしたくるみに砂糖や出汁で味付けしたもの。具だくさんのお雑煮からお餅を引っ張り出して、くるみだれにつけて食べるんですよ!岩手県の一部ではおいしいものを食べたときに「くるみの味がする」と表現することがあるそうです。それくらい、くるみが「おいしい物の代表」になっているんですね。ですから、お正月のめでたい日にはやっぱりくるみをつかったもの、ということでこのくるみだれが添えられるようになったのかもしれません。
基本情報
出汁 煮干し出汁
餅 焼いた角餅
具材 鶏肉・ニンジン・大根・ささがきゴボウ・凍り豆腐・セリ
特徴 くるみをつかったくるみだれ
京都の白みそ雑煮
京都の一般的なお雑煮は、こっくりと深い味わいの白みそ仕立て。濃厚な白みそに香ばしいカツオ節が一段と味の深みを引き立たせます。この味を出すためには、白みそはたっぷり使います。お正月の贅沢ですね。
新年の始まりを祝うお雑煮は、「角が立たず円満に過ごせますように」という思いをこめてお餅は丸餅。
具材もすべて輪切りや丸のまま加えられるのが特徴です。そのため、歳末になると雑煮大根(祝い大根とも)というお正月用のミニサイズの大根が八百屋さんに並ぶそう。
里芋は子芋を使うのが一般的ですが、元々は男性はカシラ芋で出世を願う、女性は子芋で子孫繁栄を願う…といった願掛けもされていたそうです。彩り豊かな金時ニンジンの赤色が冴え、彩りも美しいですね。
基本情報
出汁 煮干し出汁
餅 煮た丸餅
具材 雑煮大根・金時ニンジン・里芋・三ツ葉・カツオ節
特徴 具材それぞれに謂れがある、食べ方にも作法がある
福岡・博多のブリ雑煮
福岡の一般的なお雑煮は、アゴ出汁ベースのすまし仕立て。アゴ、というのはトビウオの煮干しのことで、長崎の五島列島で獲れるのですが、長崎県より福岡の方が消費量が多いんだとか。お餅は煮た丸餅で、出世魚の「ブリ」と伝統野菜の「カツオ菜」をあしらっているのが特徴です。
カツオ菜は、博多に古くから伝わる高菜の仲間で、茎の部分の味がカツオ節に似ていることが名前の由来といわれています。アゴ出汁のあっさりしたうまみとブリのうまみ、さらにカツオ菜のうまみ。この3種類があいまって、上品で深い味わいに仕上がっています。
基本情報
出汁 アゴ(トビウオ)出汁・どんこ(干しシイタケ)出汁
餅 煮た丸餅
具材 ブリ・カツオ菜・干しシイタケ・かまぼこ・焼豆腐
特徴 出世魚のブリと九州の伝統野菜「カツオ菜」。
お雑煮は家庭料理ということもあり、作り方は簡単なものが多いんです!今回は寒い季節にぴったりな「宮古くるみ雑煮」のレシピをご紹介します!
具材はスーパーなどでいつでも手に入るものだけ。野菜もたっぷり摂れるので、普段の食事として、ぜひ一度作ってみてください!
< 宮古くるみ雑煮 の作り方を動画でご紹介 >
材料(2人分)
角餅 2個、出汁(煮干し) 400ml、高野豆腐 1枚、大根 3~4cm、ニンジン 1/4本、ゴボウ 1/4本、鶏もも肉 50g、セリ 適量、イクラ 適量、醤油 大さじ1と1/2、塩 少々
【くるみだれ】
くるみ 60g、砂糖 30g、お雑煮の出汁 大さじ1と1/2
手順
1. 出汁をとる
煮干しの頭とわたを取り除き、水に入れて沸騰させます。
水につけたまま一晩置くとよりおいしく作れます。
2. 具材を切る
高野豆腐は水に戻しておきます。
具材を千切りにします。スライサーを使うと便利です。
ゴボウはささがきにして水にさらします。
鶏肉は一口サイズに切っておきます。
3. 味付けをする
出汁から煮干しを取り除き、具を加えて煮ます。火が通ったら、醤油・塩で味をととのえます。
4. 盛りつける
餅を焼いてお椀に入れ、出汁と具材を盛りつけて、イクラをのせます。くるみだれは別添えにします。
【くるみだれ】
1. くるみをフライパンで乾煎りしてすり鉢にあげ、
粗く潰したところに砂糖を加え、細かくなるまですり潰します。
2. 細かくなったらお雑煮の出汁を加えて、白濁したくるみだれにします。
イクラはお好みで。煮干しと根菜の出汁が効いています。お餅を引き上げて、くるみだれにつけて召し上がれ!
お雑煮についての話題が持ち上がると、同じ「お雑煮」として話しているのに、実は人によってまったく違うものをイメージしているのかもしれません。
お雑煮は、まだスーパーで販売されたり、飲食店で提供される機会がほとんどないため、自分の家のお雑煮以外を食べるチャンスがなかなかありません。でも、だからこそ、お雑煮談義は盛り上がるんです!ぜひ、お友達同士で話してみてほしいです。
お雑煮の調査を始めて数年が経ちますが、毎年、まだ私が知らない「お雑煮」を発見し続けることができ、地域食の豊かさや奥深さに好奇心が高まるばかりです。
出汁の種類だけでも、カツオ、昆布、イリコ、スルメ、ハゼ、アゴ…なんて具合で、地域のカラーが反映されていますし、具材にも地元の、限られた時期でなければ手に入らないような伝統野菜や食材が使われていることもしばしば。まだまだたくさんのご当地雑煮があるんだな、と興味は尽きません。
このコラムを読んでいただいたみなさんからも、「うちのお雑煮はこんな感じだったよ!」「親戚の家はこうだったよ!」という情報をぜひお寄せいただきたいと思います。また、これからの時期、「この食材がお店に並びだすと歳末だな、と感じる」「お雑煮の素材として、こんな食材の仕込みをしている」なんて情報をいただけると、とっても嬉しいです!
※この記事は昭文社コーポレートサイトからの提供記事です。
粕谷 浩子(かすや ひろこ) 料理研究家 お雑煮研究家 株式会社お雑煮やさん 代表取締役 全国のお雑煮を食べ歩き、ご当地雑煮の商品化を進める日本で唯一のお雑煮マイスター。全国各地でご当地の銭湯で主婦に声をかけ猛烈アタック。家におじゃましてお雑煮を食べさせてもらう猪突猛進型の商品開発スタイルがメディアで話題に。日々のお雑煮研究・リサーチ活動・商品開発情報はHP で更新中。 お雑煮研究所 | 株式会社お雑煮やさんのホームページ http://www.zouni.jp/ |
日本全国でお雑煮レシピが異なる理由とは
「お雑煮といえば、具材はブリだよね。もちろんアゴ出汁※1で」
「え?うちはすまし仕立てで、ナルトやシイタケ※2が入っていたかな」
「白みそに丸餅に里芋に…そうそう、金時ニンジン※3は欠かせないよね」
「出汁は煮干しだったかな。くるみだれと一緒に食べるの。お餅は焼いた角餅※4でしょ?」
「うちはすまし仕立てで、ゴボウとニンジンと…あん餅※5が入ってたよ?」
「うちもあん餅だ!でも白みそ仕立て※6だった」
「うちのお雑煮、茶碗蒸しみたいな感じ※7だけど…」
「「「え~っ!?」」」
同じ名前の料理なのに、地域によってこんなにも異なる料理…それが「お雑煮」。日本のお正月には欠かせない定番メニューです。
(ちなみにそれぞれ、※1 福岡・博多 ※2 埼玉・上尾 ※3 京都 ※4 岩手・宮古 ※5 大分 ※6 香川・善通寺 ※7 福岡・朝倉地域 でのコメントです。)
日本全国、お雑煮の種類は100種類を優に超える
そもそもお雑煮は、お正月に年神様を迎えるためにお供えした地場の産物をお餅と一緒に一つの鍋で煮て、神様と一緒に食事をするという風習です。そのため、海辺なら海産物が、山間部なら山菜が…といったように、その地域の特色が色濃く反映されてきたのです。
実は、日本全国で「お雑煮」と称される料理は100種類以上!お餅の形や出汁の種類にとどまらず、魚が丸ごと1尾入っていたり、普段は食卓に並ばない郷土野菜が入っていたりと本当にバリエーション豊か。しかも、市区町村やかつての州藩の区画を境に、数軒隣からは全く違う「お雑煮」が食べられている、ということもよくあるんだそう。
今回はそんなお雑煮の魅力や個性的なお雑煮のご紹介と、普段の食事としても食べたくなる、簡単でおいしいお雑煮レシピまで、盛りだくさんでご紹介します!
地域の魅力が詰まってる!お雑煮はこんなにおもしろい
今回は、株式会社お雑煮やさんの代表で、お雑煮マイスターの粕谷 浩子さんに、お雑煮の魅力について聞きました!全国津々浦々を取材して、ご当地のお雑煮情報を収集する粕谷さん。そのお雑煮愛は、どこから来るのでしょうか?
子供の頃は親の転勤のため、鳥取、北海道、新潟、静岡、広島と引っ越しを繰り返していました。そのため、その土地ならではのお雑煮に出会う機会は普通の方より多かったんです。だから、転校した先々で「えっ、これもお雑煮?」という体験もしばしば!同じ「お雑煮」という名前なのに、それぞれの頭の中で思い描いているイメージは全然違う。そんな料理ってなかなかありませんよね。
お雑煮の一番面白いところは、家庭料理だというところだと思うんです。でも、みんなそれぞれの「普通」を集めて並べてみると、どれもぜんぜん違う。どれも個性的で、とっても魅力的です。
日本全国、代表的なものだけでも100種類をゆうに超える数のお雑煮がありますが、どうしてそんなにいろいろな種類のお雑煮ができたんだと思いますか?それは、お雑煮が「料理人の料理」ではなく、「ハレの日の家庭料理」だったからだと思うのです。
年に一度のお正月、お祝いの、ハレの日には、普段は家族や親戚が集いますよね。よその地域から嫁いできた人や普段は離れた場所に住んでいる人も、その日だけは一緒に同じ料理を食べる。お雑煮がいわば閉ざされた家庭のなかだけの文化だったからこそ、社会や時代の影響を受けずに、ゆるやかに伝承されることができたのではないでしょうか。
隣町ともぜんぜん違う!?こんなお雑煮見たことない!
お雑煮の「関東風・関西風」の話は、この時期テレビなどでも取り上げられることが多く、聞いたことがある方も多いのでは?
お雑煮に入れるのは丸餅か角餅か…という疑問に対して、「西は丸餅・東は角餅」とよくいわれます。岐阜県の関ヶ原あたりがお餅の境界線といわれていますね。よって、その境界線上にある福井県や三重県は丸餅と角餅が混在する「お雑煮境界線」になっています。
こんな風に、日本を大きく分断するような境界線がある一方で、ピンポイントで個性的なお雑煮文化を持つ地域もあります。それが福岡県朝倉市郡地域。ここのお雑煮はなんと、「蒸し雑煮」なんですよ!
これが「筑前朝倉蒸し雑煮」!
福岡県朝倉市のなかでも、一部の地域だけで食べられているんだとか
お雑煮も数多くあるけれど、とうとう蒸されているものまで出てきた!と、私はウキャキャと大はしゃぎしてしまいましたよ。筑前煮のような里芋、レンコン等の根菜類と丸餅を、出汁・卵液と一緒に蒸す!まるで茶碗蒸しのようなこの蒸し雑煮は、お餅がつきたてのお餅と変わらないほどの柔らかさに仕上がって、とってもおいしいんです!
蒸し雑煮は、朝倉市内でも秋月、三奈木、甘木、そして筑前町の三輪、東峰村の一部で食べられているもので、同じ小学校の学区内でも全然違うタイプの雑煮が混在しているんだとか。
お雑煮の面白さのポイントのひとつは、同じ県内であっても、同じ市内であっても、必ずしも同じお雑煮というわけではないということですね。他の地域にも、こんなユニークなご当地のお雑煮がまだまだ眠っているんじゃないか、と思うと、もっともっと調べてみたくなります!
私が全国各地のお雑煮を皆さんに紹介したり、それを手軽に食べられる商品にしたりしているのには、普段は知ることができない「よそのお家のお雑煮」を知ることで、自分のお家のお雑煮を見直してもらいたい!という気持ちがあるんです。
他の文化を知ることは、自分たちの文化を愛おしむことにもつながりますよね。海外に出て海外の文化を知ってはじめて、あぁ、日本文化ってこういうものなんだなぁ、って見直すような、そんな感覚です。
粕谷さんが代表を務める「お雑煮やさん」のご当地雑煮商品
こんなに個性的で、面白くて、おいしいお雑煮を、お家の中だけのもの、お正月だけのものにしておくのはもったいない!普段から軽食として食べたり、みんなが集まったときにお雑煮の食べ比べをしたり…お雑煮がもっと身近なものになれば素敵ですよね。
お雑煮=お正月のイメージがとても強いので(だからこそ長年続いてきたのですが)、お正月以外にお雑煮を食べる、という提案にびっくりされることも多いですが、全国各地で特産品開発・まちおこしみたいな感覚でどんどんご当地雑煮商品がでてくるといいな、と思っているんです。
日本のお寿司は、今や「SUSHI」として世界中で親しまれていますよね。それと同じように、スープの中に餅が入った「ZOUNI」というスタイルも、日本の出汁文化と共に世界中に広がっていけばいいな、と思っています。
まずは日本で、そして世界へ!これからもお雑煮の調査や商品開発を続けていくつもりです。
日本全国こんなに違う!ご当地お雑煮レビュー
日本中のお雑煮を調べていくと、「あんなのも、こんなのも、お雑煮なんだ!」という新しい発見の連続です。さらに、見た目や具材の違いからわかるその地域の文化や特徴は調べれば調べるほど面白い!
数あるお雑煮のなかから、おいしい、珍しい、面白い!が詰まったお雑煮を少しだけ紹介してもらいました。
岩手・宮古のくるみ雑煮
岩手の宮古地方に伝わる一般的なお雑煮は、煮干し出汁のすまし仕立てです。お餅は焼いた角餅で、ゴボウはささがきに。ほかの具材はすべて千切りにしています。東北地域では千切り野菜のお雑煮がポピュラーですね。また、寒い地方は凍り豆腐を入れるところも多いようです。
岩手宮古のお雑煮の最大の特徴は、添えられたくるみだれです。これは、乾煎りしたくるみに砂糖や出汁で味付けしたもの。具だくさんのお雑煮からお餅を引っ張り出して、くるみだれにつけて食べるんですよ!岩手県の一部ではおいしいものを食べたときに「くるみの味がする」と表現することがあるそうです。それくらい、くるみが「おいしい物の代表」になっているんですね。ですから、お正月のめでたい日にはやっぱりくるみをつかったもの、ということでこのくるみだれが添えられるようになったのかもしれません。
基本情報
出汁 煮干し出汁
餅 焼いた角餅
具材 鶏肉・ニンジン・大根・ささがきゴボウ・凍り豆腐・セリ
特徴 くるみをつかったくるみだれ
くるみだれに使うくるみは、もともとは日本在来種の「おにぐるみ」だったそう。お雑煮づくりのときは、くるみを割るのは子供たちの仕事です。西洋のくるみよりも硬くて剥きにくく根気のいる作業ですが、子供たちは楽しみながらお手伝いしていたのでしょうね。 |
京都の白みそ雑煮
京都の一般的なお雑煮は、こっくりと深い味わいの白みそ仕立て。濃厚な白みそに香ばしいカツオ節が一段と味の深みを引き立たせます。この味を出すためには、白みそはたっぷり使います。お正月の贅沢ですね。
新年の始まりを祝うお雑煮は、「角が立たず円満に過ごせますように」という思いをこめてお餅は丸餅。
具材もすべて輪切りや丸のまま加えられるのが特徴です。そのため、歳末になると雑煮大根(祝い大根とも)というお正月用のミニサイズの大根が八百屋さんに並ぶそう。
里芋は子芋を使うのが一般的ですが、元々は男性はカシラ芋で出世を願う、女性は子芋で子孫繁栄を願う…といった願掛けもされていたそうです。彩り豊かな金時ニンジンの赤色が冴え、彩りも美しいですね。
基本情報
出汁 煮干し出汁
餅 煮た丸餅
具材 雑煮大根・金時ニンジン・里芋・三ツ葉・カツオ節
特徴 具材それぞれに謂れがある、食べ方にも作法がある
実は、白みそ仕立てのお雑煮を食べている地域はさほど多くありません。同じ近畿圏でも、すまし仕立てのお雑煮を食べている地域も多いんです。また、海を越えた四国では近畿寄りの香川・徳島に白みそ仕立てのお雑煮、九州寄りの愛媛・高知にはすまし仕立てのお雑煮が多くなっています。 |
福岡・博多のブリ雑煮
福岡の一般的なお雑煮は、アゴ出汁ベースのすまし仕立て。アゴ、というのはトビウオの煮干しのことで、長崎の五島列島で獲れるのですが、長崎県より福岡の方が消費量が多いんだとか。お餅は煮た丸餅で、出世魚の「ブリ」と伝統野菜の「カツオ菜」をあしらっているのが特徴です。
カツオ菜は、博多に古くから伝わる高菜の仲間で、茎の部分の味がカツオ節に似ていることが名前の由来といわれています。アゴ出汁のあっさりしたうまみとブリのうまみ、さらにカツオ菜のうまみ。この3種類があいまって、上品で深い味わいに仕上がっています。
基本情報
出汁 アゴ(トビウオ)出汁・どんこ(干しシイタケ)出汁
餅 煮た丸餅
具材 ブリ・カツオ菜・干しシイタケ・かまぼこ・焼豆腐
特徴 出世魚のブリと九州の伝統野菜「カツオ菜」。
お正月も人の出入りが多い博多商人の家。商人の奥さんたちは昔から、お餅以外のお雑煮の具材を、1人前ずつ竹串に刺して準備しておいたのだそう。盛り付けを素早く・美しくするだけでなく、具材の入れ忘れも起こりません。お正月の忙しくも賑やかな様子を感じられる暮らしの知恵ですね。 |
こんなに簡単!宮古くるみ雑煮のレシピをご紹介
お雑煮は家庭料理ということもあり、作り方は簡単なものが多いんです!今回は寒い季節にぴったりな「宮古くるみ雑煮」のレシピをご紹介します!
具材はスーパーなどでいつでも手に入るものだけ。野菜もたっぷり摂れるので、普段の食事として、ぜひ一度作ってみてください!
< 宮古くるみ雑煮 の作り方を動画でご紹介 >
材料(2人分)
角餅 2個、出汁(煮干し) 400ml、高野豆腐 1枚、大根 3~4cm、ニンジン 1/4本、ゴボウ 1/4本、鶏もも肉 50g、セリ 適量、イクラ 適量、醤油 大さじ1と1/2、塩 少々
【くるみだれ】
くるみ 60g、砂糖 30g、お雑煮の出汁 大さじ1と1/2
手順
1. 出汁をとる
煮干しの頭とわたを取り除き、水に入れて沸騰させます。
水につけたまま一晩置くとよりおいしく作れます。
2. 具材を切る
高野豆腐は水に戻しておきます。
具材を千切りにします。スライサーを使うと便利です。
ゴボウはささがきにして水にさらします。
鶏肉は一口サイズに切っておきます。
3. 味付けをする
出汁から煮干しを取り除き、具を加えて煮ます。火が通ったら、醤油・塩で味をととのえます。
4. 盛りつける
餅を焼いてお椀に入れ、出汁と具材を盛りつけて、イクラをのせます。くるみだれは別添えにします。
【くるみだれ】
1. くるみをフライパンで乾煎りしてすり鉢にあげ、
粗く潰したところに砂糖を加え、細かくなるまですり潰します。
2. 細かくなったらお雑煮の出汁を加えて、白濁したくるみだれにします。
イクラはお好みで。煮干しと根菜の出汁が効いています。お餅を引き上げて、くるみだれにつけて召し上がれ!
おいしい、楽しいお雑煮ワールド!この年末年始にぜひ楽しんで
お雑煮についての話題が持ち上がると、同じ「お雑煮」として話しているのに、実は人によってまったく違うものをイメージしているのかもしれません。
お雑煮は、まだスーパーで販売されたり、飲食店で提供される機会がほとんどないため、自分の家のお雑煮以外を食べるチャンスがなかなかありません。でも、だからこそ、お雑煮談義は盛り上がるんです!ぜひ、お友達同士で話してみてほしいです。
お雑煮の調査を始めて数年が経ちますが、毎年、まだ私が知らない「お雑煮」を発見し続けることができ、地域食の豊かさや奥深さに好奇心が高まるばかりです。
出汁の種類だけでも、カツオ、昆布、イリコ、スルメ、ハゼ、アゴ…なんて具合で、地域のカラーが反映されていますし、具材にも地元の、限られた時期でなければ手に入らないような伝統野菜や食材が使われていることもしばしば。まだまだたくさんのご当地雑煮があるんだな、と興味は尽きません。
このコラムを読んでいただいたみなさんからも、「うちのお雑煮はこんな感じだったよ!」「親戚の家はこうだったよ!」という情報をぜひお寄せいただきたいと思います。また、これからの時期、「この食材がお店に並びだすと歳末だな、と感じる」「お雑煮の素材として、こんな食材の仕込みをしている」なんて情報をいただけると、とっても嬉しいです!
※この記事は昭文社コーポレートサイトからの提供記事です。
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この記事は2016年12月22日の情報です。 文:DiGJAPAN! 編集部
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